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青森地方裁判所弘前支部 昭和42年(ワ)299号 判決 1970年6月11日

主文

被告伊藤は原告に対し金一五二万七、八八四円およびこれに対する昭和四二年一〇月二八日以降支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告伊藤に対するその余の請求および被告成田、同下山に対する請求を棄却する。

訴訟費用中原告と被告伊藤間に生じた費用は同被告の負担とし、原告と被告成田同下山との間に生じた費用は原告の負担とする。

この判決中原告勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、原告に対し、被告らは各自金一五四万一、九五三円およびこれに対する昭和四二年一〇月二八日(ただし被告下山は、同月三〇日)以降支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの負担とする、との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

(一)  被告成田は、被告下山の雇主であるが、被告下山は、昭和四一年九月二一日午後三時ころ被告成田所有の四輪貨物自動車(青四ぬ八七五二号、以下下山車と略称する。)を運転して、弘前市大字富田大通り方面に向い南進し、同市大字品川町交差点にさしかかつた際、右交差点東方から西方に向い進行してくる被告伊藤運転の小型四輪乗用自動車(秋五す三七〇五号、以下伊藤車と略称する。)を認めた。このような場合自動車を運転する者は、お互いに相手自動車の動向に充分注意を払い、減速、或いはいつでも停止できるよう徐行するなどして、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるところ、被告下山、および被告伊藤は、右注意義務を怠り、減速、徐行することなく漫然進行した過失により、右交差点において、下山車の左側に伊藤車が接触衝突するに至らしめ、その反動により、右交差点を通行中の原告に下山車を衝突せしめ、これによつて原告は、頭蓋内出血、全身打撲症などの傷害を負つた。右侵害は、被告下山、同伊藤の過失の競合によるものである。それ故被告下山は、民法七〇九条に基づき被告成田は、下山車の、被告伊藤は、伊藤車の、各運行供用者として自動車損害賠償保障法(以下自賠法という。)三条によりそれぞれ原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

(二)  原告は、右負傷により、つぎのとおり損害を被つた。

(1)  入院治療費 七四万一、三二〇円

昭和四一年九月二一日から昭和四二年七月二二日まで川嶋病院に入院し、入院料、治療費、注射料等金六九万一、三二〇円、および寝具料、付添人食事代等五万円を要した。

(2)  付添看護料 七万八、一〇〇円

昭和四一年九月二一日から同年一一月三〇日まで七一日間の一日金一、一〇〇円の割合。

(3)  入院中留守宅家事雇人給料 四万九、七〇〇円

昭和四一年九月二一日から同年一一月三〇日までの七一日間留守宅家政、家事、その他雑務処理のため人を雇い、その報酬一日金七〇〇円を要した。

(4)  雑費 四万二、八三三円

昭和四一年九月二一日から昭和四二年三月一六日まで入院中の採暖用燃料費、氷代等。

(5)  得べかりし利益の喪失 八二万円

(イ)  原告は、金融業桑田正次郎方に勤務し、金銭貸付の事務に従事し、日給一、〇〇〇円を支給されていたが、本件事故当日から川嶋病院を退院した昭和四二年七月二二日までの一〇ケ月間右業務に就くことができず、したがつて賃金を受けることができなかつたため、一ケ月のうち実働二六日の割合で一〇ケ月間二六〇日分の収入二六万円を逸失した。

(ロ)  原告は、前記のように医療を受けたが、頭重、めまいが去らず、また右顔面神経麻痺、動眼神経麻痺の後遺症があり、そのため筆記、計算等頭脳を使う前記の仕事に長時間従事することは不可能で、結局事故前の健康時の稼働能力に比し、今後将来にわたり少くとも三割の稼働能力が減退した。原告は、本件訴提起の昭和四二年一〇月二三日当時四五歳であるが、その後二五年七〇歳まで労働能力があるものと考えられるところ、本件事故にあわなければ(イ)記載の仕事に従事し、一日金一、〇〇〇円の割合で月間実働二六日分二万六、〇〇〇円の月収が得られ、うち一万二、〇〇〇円は、生活費に要するものと考えられるので、純益一万四、〇〇〇円を挙げ得るはずである。しかるに本件事故によつて稼働能力が三割減退したのに伴い、一ケ月当り純益は金九、八〇〇円に減ずべく、この金額による二五年間の年利五分の割合による中間利息をホフマン式計算法により控除した数値は、金一三六万六、六六六円となるところ、これと健康時の純益一万四、〇〇〇円を同様の方法によつて算出した金一八六万六、六六六円との差額五六万円は、本件事故により原告が稼働能力の減じた結果被る損害である。

(6)  慰藉料 一〇〇万円

以上合計金二六八万一、九五三円

(三)  原告は、自賠法一六条により金一〇二万円の損害賠償額の支払いを受けたほか、被告成田から金二万円、被告伊藤から金一〇万円の賠償を受けた。

(四)  よつて被告らに対し残額一五九万一、九五三円のうち金一五四万一、九五三円の連帯支払いを求めるため、本訴におよんだ。

以上のとおり述べた。

立証として、甲第一ないし第二九号証を提出し、証人川島康司、桑田正次郎の各証言、鑑定人佐藤時治郎の鑑定の結果、原告本人尋問の結果を援用した。

被告伊藤、および被告成田、同下山訴訟代理人は、いずれも請求棄却の判決を求め、答弁として、

被告伊藤は、請求原因(一)の原告主張の日時場所において、主張のような自動車衝突事故があり、これにより原告が負傷したことは認めるが、傷害の部位、程度は不知、同(二)の事実は不知、同(三)の事実中被告伊藤が原告に弁償した金額が一二万円であるほかは不知、と述べ、

被告成田、同下山訴訟代理人は、請求原因(一)の事実中被告成田は、被告下山の雇主であり、下山車の保有者であること、原告主張の日時、場所において、主張の自動車事故のあつたことは認めるが、被告下山の運転状況、および同人に原告主張のような過失があつたことは否認する。同(二)の事実は、不知、同(三)の事実中被告成田が原告に対し金二万円を支払つたこと(これは見舞金である。)は、認める。被告下山は、当日弘前市大字品川町十字路において、殆んど停止に近いまでに車の速度をおとし、前方および左右を注視し、歩行者の動向に注意を払い、危険のないことを確認したうえで徐行して交差点を南進した。ところが、被告伊藤は、右交差点を東方から西方に向け猛スピードで進行してきて、被告下山の運転する自動車に衝突した。右交差点には、その東南隅に一時停止の標識があるので、東方から西進する自動車は、当然交差点に入る前に一時停止すべきであり、被告下山は、右交差点に進入する車両もなかつたので南進したのである。しかるに被告伊藤は、道路の右よりを一時停止をも無視して交差点に進入し、下山車に衝突したため、下山車は、被告下山がブレーキをかけたまま伊藤車に押しやられて、折柄右交差点西南隅に立つていた原告に衝突するに至らしめられたものであつて、被告下山は被害者でこそあれ、加害者ではない。なお下山車は、なんら整備上の欠かんはなかつた。

以上のとおり述べた。

立証として被告成田、同下山訴訟代理人は、被告下山(第一、二回)、成田、伊藤各本人尋問の結果、検証の結果を援用し、被告全員は、甲第一、二号証、第二二ないし第二九号証の成立を認め、その余の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

第一被告伊藤の責任

(一)  昭和四一年九月二一日午后三時ころ、弘前市大字品川町交差点において、被告伊藤の運転する自動車と被告下山の運転する自動車とが衝突し、そのため右交差点付近を歩いていた原告に衝突、同人を負傷させた事実は、原告と被告伊藤間で争いがない。

(二)  事故現場の状況

成立に争いのない甲第二三号証、検証の結果、および弁論の全趣旨を総合すると、本件事故現場は、ほぼ南北に走る弘前市大字大町方面から同市大字富田大通り方面に通ずる幅員約一〇メートル一〇、の舗装道路と、これに交差しほぼ東西に走る同市大字富田町方面から同市大字山道町方面に通ずる幅員八メートル四〇の舗装道路の交わる十字路付近で、両道路とも公安委員会の特に定めた速度制限はなく、交差点における交通整理は行われておらず、富田町方面から西進して交差点に入る手前一メートルの地点、およびその反対方向から東進して交差点に入る地点にそれぞれ一時停止の道路標識が設けられているが、大町方面から富田大通り方面に南北に走る道路については同種の規制はされていない、ことが認められる。

(三)  前記甲第二三号証の一部、いずれも成立に争いのない甲第二号証、第二四、二五号証に、被告下山(第一、二回)同伊藤各本人の供述、ならびに検証の結果を総合すると、つぎの事実が認められる。

被告伊藤は、本件事故当日、原告主張の自動車を運転して弘前市から帰宅途上同市大字富田町方面から同市大字山道町方面に向い時速約四〇キロメートルで、前記交差点付近に差しかかつた。ところで、およそ自動車の運転者は、前方をよく注視し、道路標識の定める規制を守り、特に前記のような交差点においては他の道路からすでに交差点に入つている車両の有無を確認し、その通行を妨げることなく、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるところ、被告伊藤は、これを怠り、右交差点手前約二〇メートル付近に至り、助手席にのせておいた買物包みが運転席の方にずれ寄つてきたので、これをもとの位置に押し戻そうとして視線をそらし、気を奪われたため、路上前方に一時停止の標識のあることはもちろん、交差点のあることさえも気付かず、漫然前記速度で右交差点に突入した過失により、同市大字大町方面から同市大字富田大通り方面へ向け南進、すでに前記交差点に約五メートル三五進入していた被告下山の運転する原告主張の自動車の左側面、助手席と荷台の間付近に激しく突き当り、余勢なおも右下山車に接触したまま、これを、その斜め右前方に約九メートル六〇押しやつた。そのため折柄右交差点西南角付近を歩いていた原告に下山車を衝突せしめ、原告は、右衝突によつて、路上にてん倒し、頭蓋骨骨折、頭蓋内出血、全身打撲、肋骨骨折、肋膜損傷、内臓出血の瀕死の重傷を負つた。

甲第二三号証、第二七号証の各供述記載および被告伊藤本人の供述のうち右認定に反する部分は措信できないし、他には右認定を妨げる証拠はない。

(四)  被告伊藤本人の供述によれば同人が運転していた前記自動車は、同被告の肩書居町内某自動車整備工場に売りに出されていたのを同被告が調子がよければ買い受けるつもりで、本件事故当日これを借り受け、弘前市内から商品の仕入用務を兼ねて試運転のため運行の用に供し、事実数日後にこれを買い取つたものであることが認められるので、被告伊藤は、自賠法三条により、原告が前記(三)の負傷により受けたつぎの損害を賠償すべき義務がある。

(五)  原告の損害

(1)  入院治療費 六九万一、三二〇円

証人川島康司の証言によつて成立を認めうる甲第三ないし第八号証によれば、原告は、前記負傷により、原告主張(二)(1)の期間川嶋病院に入院して治療を受け、これによつて入院料、治療費、注射料等合計右金額を要したことが認められる。その余の金五万円については、この点に関する甲第九号証の記載に疑問があるのでこれを認めがたい。

(2)  付添看護料 七万八、一〇〇円

原告本人の供述、およびそれにより成立を認めうる甲第一一号証によつて原告主張の期間付添を受け、右費用を要したことが認められる。

(3)  入院中留守宅家事雇人給料 四万九、七〇〇円

原告本人の供述、およびそれによつて成立を認めうる甲第一三号証によれば、原告は、本件事故当時幼い子女をかかえていたが、妻は原告の看病のため手をとられ、止むをえず家事、家政処理のため事故当日から昭和四一年一一月三〇日までの七一日間木村みつえを雇い、その給料四万九、七〇〇円を同人に支給した。

(4)  雑費 四万二、八三三円

原告本人の供述によつて成立を認めうる甲第一六号証により、原告は、その主張の(二)(4)の期間、主張の雑費を要したことが認められる。

(5)  入院期間(一〇ケ月)中の逸失利益 二六万円

証人桑田正次郎の証言、および同証言により成立を認めうる甲第一〇号証、ならびに原告本人の供述を総合すれば、原告は、本件事故前は金融業桑田正次郎に雇われて、得意先の信用調査、集金などの業務に従事し、日給一、〇〇〇円を支給され、一ケ月のうち少くも二六日は就労していたが、本件事故による負傷入院(昭和四一年九月二二日から昭和四二年七月二二日までの一〇ケ月)により、右収入を挙げるに由なく、合計二六万円の収入を逸失したことが認められる。

(6)  その余の逸失利益 一〇四万五、九三一円

前記(5)で認定のとおり、原告は、本件事故にあうまでは、金融業桑田正次郎に雇われて、得意先の信用調査、集金などの業務に従事し、月収二万六、〇〇〇円を得ていたが、証人桑田正次郎の証言および鑑定人佐藤時治郎の鑑定の結果を総合すれば、原告は、本件事故による前記外傷の後遺症状として、右動眼神経麻痺、右顔面神経麻痺のため対光反応の遅延、輻輳反応の異常、顔面の非対称(特に笑つたり、話したりするときに著しい)を示し、眼痛、後頭部痛(特に頭を下げて行う力仕事のさいは悪心を生ずる)を伴い、記銘力、判断力、思考力に障害がみられ、総じて原告の稼働能力は、負傷前に比べ約三〇パーセント低下し、これを回復しがたいこと、現に原告は、前記のとおり川嶋病院を軽快退院したものの、従前の前記就職先の仕事に適応しなくなり、退職のやむなきに至つたことが認められる。

それ故、原告の稼働能力を金銭的に評価すれば、受傷前の健康時に挙げえた月収二万六、〇〇〇円から、その三〇パーセントに当る七、八〇〇円低下したものと認める。

前記甲第二号証によれば、原告は本件訴提起の昭和四二年一〇月二三日当時四五才であつたことが認められるところ、原告は、六〇才に達するまでの右日時から一五年間は稼働できるものと認めるのを相当とするが、その間は前記のとおり月額七、八〇〇円低下した稼働能力に頼るほかなく、この割合による一五年間の逸失利益をホフマン式計算法により中間利息を控除した本件提訴当時の現価が、一〇四万五、九三一円(円未満四捨五入)であることは、計算上明らかである。

(7)  慰藉料 五〇万円

証人川島康司の証言によれば、原告は幸い一命をとりとめたものの前記負傷により、一時は極めて重篤の症状におちいつたことが認められ、また前記の如く永らく病床にしんぎんし、その後も前記のような後遺症に悩まされ、そのうえ鑑定人佐藤時治郎の鑑定の結果によれば、長期の病気療養がいと口となり、不測の夫婦別れの悲劇を産むまでに至つたこともうかがわれるので、その心身の苦痛は、けだし甚大なものがあることが察せられる。

よつて被告伊藤は、金五〇万円をもつてこれを慰藉するのが相当である。

(8)  以上の(1)ないし(7)の合計は、金二六六万七、八八四円となるところ、原告が自賠法一六条一項により保険会社から金一〇二万円の損害賠償額の支払いを受けたことは、原告と被告伊藤間で争いがなく、原告が被告伊藤から金一〇万円の一部弁償を受け(被告伊藤は、その額を金一二万円であると主張するが、一〇万円をこえる部分については、これを認めるべき証拠がない。)、なお被告成田からも金二万円の支払いを受けた事実は、原告の自認するところであるから、これを差引いた残損害は金一五二万七、八八四円となる。

(六)  結び

よつて原告の被告伊藤に対する請求は、右金一五二万七、八八四円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明かな昭和四二年一〇月二八日以降支払いずみに至るまで年五分の遅延損害金の支払いを求める限度では、理由があるからこれを認容するが、その余は理由がないから棄却する。

第二被告成田、同下山に対する請求

(一)  下山車が被告成田の所有であることは同被告の認めるところであり、本件事故当日、同被告下山を商用のため右自動車を運行せしめて、その用に供したものであることは、被告下山正二本人の供述(第一回)によつてこれを認めえられ、被告下山の運転する右自動車が、前記交差点で、伊藤車と衝突し、これにより同所付近を歩いていた原告に下山車が衝突して負傷せしめた事実は、争いがない。

(二)  原告は、被告下山が右交差点において、伊藤車の動向に対する注意、徐行義務を怠つた過失により右事故を招いたと主張し、被告成田は、被告下山に運行に関し注意を怠らず、本件事故は全く被告伊藤の一方的過失によつて、ひき起されたものであると主張するので案ずるに、前記甲第二三号証の一部、検証の結果、および被告下山本人の供述(第一、二回)によれば、被告下山は、大町方面から富田大通り方面に向け南進し、前記交差点に差しかかる前にセカンドに切りかえ、時速二五キロメートルとし、交差点入口でさらに速度をおとし、他の道路を注視したところ、左方道路上交差点からおおむね一二メートル位先を同交差点方向に向う伊藤車をみとめたが、同方向から交差点に進入する車両は、その直前で一時停止すべきことになつているので、伊藤車も当然一時停止するものと予期し、そのまま進行しても支障はないものと信じて、右交差点に進入徐行し、約五メートル余り前進したところで、意外にも伊藤車は、一時停止の気配もなく、進行してきたので、被告下山は、急きよフツトブレーキを踏んだが、避ける間もなく、自車の左側助手台と荷台付近に、伊藤車から激突されたうえ、余勢なお左横合いから斜め右前方にブレーキを踏んだまま、同交差点南西角付近まで押しやられ、そのさい、右交差点付近を歩いていた原告に突き当り、第一(三)で認定の如く原告の負傷を招いたものであることが認められ、甲第二三号証中この認定に反する部分は、これを採らない。

前記第一(二)で認定のような右交差点の状況、および右に認定のような下山車と伊藤車の位置、被告下山のとつた措置に照らし、同被告が、伊藤車の一時停止を期待し、同交差点に先ず進入したことは、これを是認することができ、もし伊藤車が右交差点通行の法規を遵守するならば、本件事故は起こりえなかつたこと、被告下山に対し、伊藤車の右法規を無視することもありうることの認識を期待することはとうてい無理な状況であつたものと認められる。

もつとも被告下山本人の供述(第二回)中に「伊藤車を発見したとき一時停止をする状況にあつたか」との質問に対し、「ありませんでした」と答えた部分があるけれども、その前後の供述および同被告本人(第一回)の供述、成立に争いのない甲第二四号証(同被告の司法警察員に対する供述調書)によれば、被告下山は、本件事故直後の警察の取調および本件の本人尋問においても終始「伊藤車は一時停止をすると思つた」旨供述し、同人が伊藤車に一時停止の気配なしと覚知したのは衝突寸前であるとの供述に照せば、右摘録の供述部分採つて、もつて前記の認定を妨げるものとすることはできない。

そうすると、前記本件事故に至る経緯と、前記第一(三)の認定事実とを合わせ、被告下山には、本件事故発生について過失のとがむべきものがなく、右事故は、被告伊藤の一方的な過失によつてひき起こされたものというべく、下山車に構造上の欠かん又は機能に障害がなかつた旨の被告成田の主張について、原告は明かに争わないから自白したものとみなす。

右認定を動かして、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

(三)  そうすると、原告の被告下山、同成田両名に対する請求はこれを排斥するほかはない。

第三

よつて訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条を、各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 飯澤源助)

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